オリゾン・グリーズ



扉の取っ手もまた装飾に凝っている。



まるで翼のように象られた銅の取っ手を握り戸を開くと、ぎいい、という不気味な音とともに静寂が彼の背中を抱いた。



抱き寄せられるように中に入れば、耳が痛くなるほどの沈黙と、眩暈がするほどの暗闇に飲み込まれる。




明りはないのか…いや、そもそも人がいる様子がない。



国営ならば事務官の一人や二人いるものだろう。



クリストハルトは半ば呆れながら、ポケットからマッチを取り出して擦ると、ちょうど扉の左手にあった角灯に炎を移した。



まだ日は高いのに暗い。



というのも、窓はすべてカーテンで塞がれているからである。



外からでは曇っていて中の様子が見えないのかと思ったが、ここはまるで中身を隠すように窓を閉じている。



数も少なかった。



床を見れば、木の板の隙間に埃がたまっていて、歩くクリストハルトの足跡が綺麗に映る。



永く誰も訪れていなかったのか、彼のほかには足跡はない。





不思議なところだ。




< 5 / 31 >

この作品をシェア

pagetop