オリゾン・グリーズ
扉の取っ手もまた装飾に凝っている。
まるで翼のように象られた銅の取っ手を握り戸を開くと、ぎいい、という不気味な音とともに静寂が彼の背中を抱いた。
抱き寄せられるように中に入れば、耳が痛くなるほどの沈黙と、眩暈がするほどの暗闇に飲み込まれる。
明りはないのか…いや、そもそも人がいる様子がない。
国営ならば事務官の一人や二人いるものだろう。
クリストハルトは半ば呆れながら、ポケットからマッチを取り出して擦ると、ちょうど扉の左手にあった角灯に炎を移した。
まだ日は高いのに暗い。
というのも、窓はすべてカーテンで塞がれているからである。
外からでは曇っていて中の様子が見えないのかと思ったが、ここはまるで中身を隠すように窓を閉じている。
数も少なかった。
床を見れば、木の板の隙間に埃がたまっていて、歩くクリストハルトの足跡が綺麗に映る。
永く誰も訪れていなかったのか、彼のほかには足跡はない。
不思議なところだ。