オリゾン・グリーズ
扉のすぐ右手には受付らしいカウンターと、その奥に事務室らしい部屋があった。
二番目の扉を開くと、すぐ本棚の羅列があり、ジャンルを示す差し札が各所に鎖で吊るされている。
鎖はだいぶ錆びついていた。
地理、物語(西方)、物語(東方)、家庭医学、植物学、生物学…と辿っていると、不意に部屋の奥に螺旋階段を見つけた。
手すりはこれまた凝った装飾で、実用性より見た目重視であることは明白である。
掴み難い。
木製の階段は、彼が足を踏み出すとさっきの扉よりも大きく悲鳴を上げる。
壊れそうな不安がよぎるが、階上への好奇心がそれを粉砕し、クリストハルトは螺旋をゆっくり上った。
「…………」
その中途で立ち止まったのは、階段に、僅かであるけれども、彼のものではない足跡を見つけたからである。
どうして…一階には無かったというのに。
彼が見落としただけか、それともこんなところに誰か住み着いている者がいるのか。
不審者か否かを判断するより先に、その奇妙な事実への疑問で頭がいっぱいになった。