オリゾン・グリーズ
螺旋は三階まで続いているが、途中踊り場があって二階への扉がある。
銅製の黒ずんだ扉には、確かに埃が付着しているのだけれども、誰かが握ったように不自然な付着の仕方をしていた。
やはり誰かいる。
出口は一つしかないのだから、きっとこの建物の中にいるはずである。
クリストハルトは扉を開け、第二の部屋へ踏み込んだ。
やはり暗闇と静寂ばかりで人の気配は無い。
低い本棚の羅列であふれかえる部屋の奥に、『歴史』と記された差し札を見つけた。
父の著作ならジャンルは確実に歴史の類だろう。
クリストハルトは角灯を胸の位置でぶら下げて、歴史と記された差し札のもとに本棚の道をジグザグに歩いた。
『クリストフ・エミーリア』の名前を探す。
本棚の管理もあまり行き届いてはおらず、タイトルも著者の名前もすべてバラバラに並べられていた。
せめてなにかアルファベットで並べればいいものを。
難しいタイトルと堅い文字表記に頭痛を覚えながら、クリストハルトは父の名前を探した。