桜子さんのお礼
お嫁さん

「はぁ~」
「ハイ六回目ー」
「いちいちため息ごときに突っ込まないでよ、
 ああ、息子を嫁にやった、あんただから私の気持ちがわかると思ったのに」
「軽い気持ちで思いっきり誤解を受ける日本語の間違いをしないでほしいわ」

 幼馴染であり、同じ年頃の息子を育てた私にお茶を出しつつ、面倒そうな口調で言う加奈子ちゃんに、私は続けて言った。
「だってあんたのとこの息子、細く優男で料理も手芸も得意で、今の嫁とのさんとの暮らしでも、ずっと食事作ってるそうじゃない」

「仕方ないわよー、嫁の仕事が終わるのが遅いんだから」
「うーん、そうよねぇ、今の時代、悪い条件もまだまだだけど、男女平等だし、早く手のあいたほうが家事をするのが当たり前なのよね・・・・」
 チラッと加奈子ちゃんを見る、

 彼女は早くに旦那を亡くし、女手一つで、最近定番(?)のシングルマザーとやらでそりゃもう、いっぱいいっぱい、気張って子育てをした。

 その苦労をした、という自負があるからか、私の旦那の愚痴は聞いてくれない。

 旦那のいない苦労は解る、しかしいても苦労はするもんなんだけどなぁ・・・・。
 と、旦那の話でなくて、我が息子の話し、正確には息子の嫁。
 で、愚痴じゃなくて・・・相談みたいなもんだけど・・・どうやって話を持っていこう。

「加奈子さんの息子の嫁さん、一人っ子だったって?」
 まずは、こっから。
   
「そうよ・・・・ついていくのが大変よ・・・」
 低い、忌々しげな声。
 おおこわ・・・・・。


 先日聞いた話、

 彼女は一人っ子でおやつの取り合いなど兄弟で争う経験もない子にありがちな、おっとりとした我侭な子で、
 連休の日に遊びに来たので、少し奮発して食後のデザートにとケーキを買ってきて、すぐ食べられるようにとお皿に切り分けた。

 それを見つけたお嫁さん、一つ手にとって食べて、
「なに?これ、おいしー」と、
 全部一人で食べてしまったそうだ。

お皿に切り分けているのを見ても他の人のものだと思わない、もしくは、誰かに分けてあげようという、思考がないのだという。

「全然悪いと思ってないから・・・反対にやりにくいわ」
おいしかったので、新しいのを買って来まーすって、笑って買いに行ってしまったそうだ。


 聞いたときは笑ったことを思い出しつつ、私はまた。
「はぁ~」
「七回目・・・・うっとおしい」
「だって、うちの嫁様も一人っ子なのよ、おっとりしてて・・・・」

「さっき挨拶に見えたわよ、すごくかわいいじゃない、うちの太っちょと違いスタイルもいいし、性格悪くてもあの容姿なら、少しは我慢できるわ」
 私はわなないた。
「加奈子ちゃんって外見で判断するの?」

「それはあなたでしょう、いまだに着物にこだわって、日本人はこうあるべきって、
 立ち姿や姿勢とかにも口煩くて、
 息子さんが女性を連れてくるって電話で聞いてパニックになりながらも、彼女の容姿を聞いていたじゃない」

「だって・・・加奈子ちゃんとの嫁様みたいにデブでブスって、ヤだし」

 加奈子ちゃんとの付き合いは長くて、人の悪い表現も平然とする、
 加奈子ちゃんはちらりと、私を睨む・・・・・。
 あーだこーだあっても、息子の嫁さんの悪口は嫌なのか・・・気をつけよう。

「で、ちょっと日本人離れした容姿らしいと、すごい困惑していたのに、名前を聞いたとたん、安心して」
「だって、桜子なんて、いい名前じゃない」

「・・・・・・・名前どおりにいい子らしくて、いいわね・・・・なら、何でため息ついてうちに来るの?」

解ってるくせに、
「・・・・私兄弟多かったし、貧乏だったからさぁ」

「ああ・・・食べ方が汚いわね」

 私は泣きそうな顔になる・・・汚い。
嫌、綺麗に食べるのだ、残さず早く、そして時々人の皿にまで箸を伸ばしてしまうのだ。
 無意識に・・・・・直しようのない、幼い頃に植えつけられた生きるための技、

 見られたくない・・・・。
「今でもそれやって旦那さんにも嫌われてるもんねー、
早く帰れ」

 最後は容赦ないきつ~い声色。

「か、加奈子ちゃん」
「さっさとその癖お披露目して嫌われてきなさい、そしたら笑って話を聞いたげる」

***

 冷たく、加奈子ちゃんに追い払われて家に帰る、
 家では、旦那と息子と桜子さんが外食にいく用意をして、私の帰りを待ちわびていた。

***

 髪を茶色どころか黄色に染めてる桜子さん
 彼女の顔は日本人離れをしているので似合わないこともない、性格も可愛らしく何とか付き合えそうだった。

 あっ、あの癖?
 私は加奈子ちゃんに少しばつが悪そうな顔で笑ってみせる。
「外食に行った先で、やはり箸を彼女のお皿につけたわ。
 で、彼女にお礼をいわれたの」

「お礼?」
 意味不明だとばかりに眉をひそめる、加奈子ちゃん。

「彼女好き嫌いが多くて、お皿の脇に嫌いなものを積み上げる子だったの」

おしまい
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