君のいる世界
俺はスーツの上着を脱ぎ、麗奈に近寄った。
その瞬間、麗奈は目をギュッと瞑って身体を強張らせた。
「…そんなに怖がるなよ。って、怖がらせたのは俺か……麗奈。ごめんな」
俺は麗奈の肩にスーツを掛け、目を合わせずに部屋を出た。
とてもじゃないけど、麗奈の姿を見れなかった。
こんな震える程怖がらすつもりなんてなかったのに…
俺はこの世で一番守りたかった笑顔を壊してしまった。
自分の欲望のために…
その日、俺は一睡も出来なかった。
こんなにも夜が明けることが怖いと思ったことはない。
だけど、皮肉にも朝は来る。
麗奈の部屋の前をうろうろと回って数分。
まだ麗奈は出てこない。
腕時計を見ると家を出るまで30分を切っていた。
本当に時間がない…
俺は意を決し、ノックをしようと握った右手を挙げた。
心臓が異常なぐらい音を立てる。
嫌な緊張感が押し寄せ、俺は息を飲んだ。
ーーーーーーコンコン。
「お嬢様。朝食の準備が出来ました」