君のいる世界
パシャパシャと音を立て、海面に映る自分が揺れる。
静まった海面に再び映し出された自分の姿が、毎日鏡で見る自分よりも心なしか穏やかに見えた。
今の私は専属執事もいない、送り迎えの高級車もない、周りに財閥の社長令嬢として特別視する人もいない、自由な私なんだ。
普段ならこうやって靴を脱いで素足で外を歩く事さえ許されないのに…
「…おい、どうした?」
「…ふぇ?…あ、何でもない」
今の状況が嬉しくてつい自分の世界に入っちゃったみたい…
会長は「変なやつ」と言いながらふっと笑った。
パシャ。
私は海水を両手に掬い、そのまま会長に掛けた。
「っ冷て!…おい、お前な〜」
「あははは。会長が変なやつとか言うからだよ」
私はわざと意地悪そうにニヤリと笑ってみせた。
会長は手の甲で濡れた頬を拭いながら、そんな私を力強い瞳で見据えてくる。
「…覚悟しろよ?」
「…へ…?あ、あの…」
今、会長の瞳の奥が光った…気がしたのは気のせい?
会長はその場に靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾を捲り上げ始めた。
そして顔を上げたと同時に再度視線がぶつかり、ゆっくりと右の口角を上げた。