君のいる世界
や、やばい…
肉食獣が獲物を捕らえたような、そんなオーラが背後に見える…
危険を感じ後ず去るも、時すでに遅し。
会長は海面を激しく揺らしながら私に向かって走り出した。
「ちょっと待って…っきゃー!!」
会長とは反対方向に逃げようと背を向けた瞬間、頭上から大粒の雨のように水しぶきが降ってきた。
お陰で制服のブレザーが肩から胸辺りまで濡れ、髪から水がポタッと数滴落ちて行く。
「やったわねっ!!」
「っおい!やめろって!」
私達は海水を掛け合いながら無邪気に笑い合った。
舞い上がる水しぶきに朱い夕日があたりキラキラと輝く。
ゆっくりと穏やかに時間が流れ、このまま時が止まればいいと思った。
今思うと周りの目を気にせず、大きな口を開けてこんな風に笑ったことあったかな…
私はお母さんが家を出て行った頃から祖母に“谷本財閥の社長令嬢”として恥ずかしくないように厳しく躾けられてきた。