君のいる世界




「隙あり!」



私は会長が一瞬手を休めた隙に連続してバシャバシャと水を掛けた。



「うおっ!ちょ…やめろ…お前…」



会長は海水を避けるように片手で目を守りながら、私を止めようともう片方の手を伸ばして近づいてくる。


私も捕まらないように後ろ向きに海水を掛けながら逃げた。


だけど膝下まで浸る海の中でそんな速く走れるわけがなく、あっという間に私と会長の指先が触れる距離まで追い詰められた。




「…待てって」



「きゃあ!!」



背後から会長が私の腕を掴み、勢いよく引き寄せた。


私の身体はすっぽりと会長の中に収まり、細いけど筋肉がしっかりついた会長の腕が首に絡みつく。




一瞬の出来事で頭の中がパニック寸前だった。




海面は静けさを取り戻し、穏やかに波が打ち寄せる。


波が引くと砂浜から白い貝殻が半分だけ顔を覗かせ、またすぐに次の波に消えて行く。





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