君のいる世界
あれから5年。
母さんはまだ法事の時にしかここに来ない。
その代わり、月命日には家の仏壇に親父が好きだったカレーライスを供えている。
俺は親父との思い出をようやく懐かしむことが出来るようになった。
琴音は母さんや俺の負担を軽くしようと色々協力してくれるし、春音も大和も父親がいないことを小さいなりに理解している。
俺達家族の悲しみはあの頃のまま変わらないけど、それぞれ前に進んでそれなりに幸せに暮らしてる。
なのに、あの男は…
“こんなにも立派になって…お父さんも喜んでる”
立派になって、だと!?
ふざけんな…
好きで立派になったんじゃない。
母さんも俺も妹達も、口では言わないけど色んな面で自分の欲求を我慢してる。
親父が死んでからというもの同情の目を向けてくる奴らが多い中、俺らは可哀想って思われないように無理矢理笑顔を作ってきた。
そうやって自分を抑えたり周りに気を遣ったりして、同級生よりも早く大人になっていくしかなかったんだ。