君のいる世界
プップーッ!
国道を通る車がクラクションを鳴らし、暗くなった海と街に響いた。
「もうこんな時間か…」
腕時計は20時を指そうとしている。
波はまるで今の俺の心のように荒れ始めた。
今日は海を見ても全くスッキリしない。
それどころかあの男への憎しみが増す一方だった。
そして何よりも、谷本麗奈の悲痛に満ちた顔が脳裏に焼き付いて離れない。
俺はあいつを拒んでしまった。
あの男と全然違うってわかっているのに、さっき“お父さん”と呼んでるのを目の当たりにして実感した。
谷本麗奈はあの男の娘、なんだと…
俺は立ち上がりズボンを叩いて砂を落とす。
「親父、また来るな」
俺は海に向かって呟くと、鞄を持って浜辺を後にした。