君のいる世界
「ったく、風引くぞ…」
そんな小言を言いながらも、気持ち良さそうに寝てる春音を見ると自然と顔が緩む。
最近、反抗期なのか生意気なことを言うこともあるけど寝顔はまだあどけなさが残ってる。
俺は春音が起きないように静かにその軽い身体を抱き上げて階段を昇った。
「琴音。ドア開けて」
数秒後、【琴音、春音の部屋】と書いてあるプレートが掛かったドアが開き琴音が顔を出した。
「おかえり。あ〜あ、またテレビ見ながら寝ちゃったんだ」
俺は、四畳半の部屋に所狭しと置かれた二段ベッドの下の段に春音をゆっくりと降ろした。
春音のベッドには、俺が誕生日に買ってやった大きな人形が眠るように横たわっている。
「その人形、毎日抱きながら寝てるよ」
琴音はそう言いながら掛布団を掛け、春音の頬を人差し指で突っついている。
「琴音、弁当屋の朱美さんがうちでバイトしないかって言ってたぞ」
俺はさっきから緩みっぱなしの顔がバレないように視線を逸らしながら言った。