君のいる世界
あなたの娘に生まれて
無駄に広い車内。
高級な革製のシートは相変わらず硬く、この芳香剤の匂いは妙に鼻につくから昔から好きじゃない。
私は運転席の後ろに座り、窓から見えるネオン街を只管眺めていた。
足早に過ぎ去って行く煌びやかな世界は、今の私には鬱陶しくて仕方が無い。
だけど、隣りに座る人物…父親の顔を見たくなくてそうせざるを得なかった。
私は会長が暗闇の中に消えてしまった後、足が地面に張り付いてしまったかのように動けずにいた。
“悪いけど、一人にさせて”
その言葉とあの冷酷な瞳が頭から離れなくて、身体が小刻みに震えてしまう程だった。
鈍器で叩かれたような心臓の鼓動は、暫く鳴り止むことがなかった。
どれぐらいその場に立ち尽くしていたかわからない。
いつの間にか側に来ていた父親に肩を支えられるようにして、私は霊園の駐車場まで来ていた。
いつもなら父親と一緒に帰るだなんて抵抗するのに、今はその気力すら残ってない。
そんなことよりも私の頭の中は会長のことで一杯一杯だった。