君のいる世界
バタンッ!
「お嬢様!!」
車のドアが荒く閉まる音と男性の慌てたような大きな声で、私は地面に向いていた視線を上げた。
黒塗りの車から降りて来たのは、父親の秘書兼専属執事である康君のお父さん。
「お嬢様…良かった…ご無事で、本当に良かった…」
おじさんは私の目の前で足を止めると、そう言って安堵の表情を浮かべた。
「あの…無事って…?」
「お嬢様に何かあったのではないかと…もう少し待っても連絡取れなければ捜索願を出そうと思っておりました」
私はおじさんの言ってることがよくわからなくて眉を顰めた。
無事で良かったとか、何かあったのではとかどういうこと…?
捜索願って一体何のーーーー…
「…っ!」
私は目を見開き、ハッと息を呑んだ。
そうだ…
私、朝からずっと康君のこと避けてて…
携帯は鞄の奥底に閉まったまま放置したまま誰にも連絡してない。
私は自分の仕出かしてしまった愚かな行動にやっと気が付いた。
おじさんにもトミさんにも、康君にも…皆に心配掛けてたんだ。