君のいる世界
ややあって、直幸さんは躊躇いがちに口を開いた。
『そういえば、誕生パーティーの招待状届いたよ』
「あ…そっか。もうそんな時期なんだ…」
毎年、9月下旬になると私の誕生パーティーが盛大に行われる。
直幸さんも毎年出席してくれていた。
『ドレス姿、楽しみにしてる。それじゃあ、お休み』
「お休みなさい」
電話はほんの少しだけ名残惜しさを残したまま静かに切られた。
プーッ、プーッという機械音がやけに耳に残る。
直幸さんは、明日会えないと断った後も私に気を遣わせないようにしてくれた。
その優しさが胸に染みる。
同時に、私の心の中は罪悪感でいっぱいになった。
私は部屋の電気を消し、窓を開けて月を眺める。
昼間は真夏日に近い気温にも拘らず、今日の夜風は冷たくて火照った身体には心地良い。
ゆっくりと新しい空気を吸い込み、息を吐いた。
だけど、罪悪感は全然消えてはくれなかった。