君のいる世界
鞄の中も制服のポケットも、何処を探しても生徒手帳が見当たらない。
そうか…制服の胸ポケットに入れておいて、手首を思いっきり引っ張られた時に落ちたんだ。
今まで気付かなかった自分の鈍感さに呆れつつ、会長にツカツカ近寄って生徒手帳に手を伸ばす。
だけどその手は生徒手帳に触れる事はなく、虚しく空を切った。
「ちょっと…返してよ!」
そう言って思いっきり睨みつけるも、会長は眉一つ動かさない。
それどころか片方の口角を上げて「ふっ」と鼻で笑った。
「それが落し物を拾ってくれた人への態度?お嬢様はお礼すらまともに言えないわけ?」
「…っ!…拾ってくれて…ありがとう御座います…」
悔しい…悔しい…!悔しい!!!
私はぎゅっと下唇を噛み締めながら頭を下げた。
会長は何も言わず、ソファの前の机に生徒手帳を投げ捨てるように置くと、
「じゃあ、礼でも貰っておくわ」
と、不敵な笑みを浮かべて私の腕を引っ張った。
「ひゃっ!!」
その瞬間、素っ頓狂な声を上げ持っていた鞄が激しく音を立てて床に落ちた。