君のいる世界
「行くぞ」
「うん!」
会長は私の右手をギュッと握り締め、そのまま走り出した。
私はもう片方の手でドレスの裾を踏まないようにしっかりと上げて、会長に必死でついて行く。
「麗奈!!待ちなさいっ!!麗奈!!!」
祖母の叫び声が聞こえ、走りながらバルコニーの方へ振り返った。
祖母は蒼白な顔をして、柵から身を乗り出すようにしている。
その隣りで父親と小出社長と婦人は口元に笑みを浮かべ、直幸さんは「幸せになれよ!!」と手を振ってくれた。
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「この度は孫が…とんでもないことを……誠に申し訳御座いません」
二人の姿が見えなくなった会場では、祖母が小出社長と婦人に深く頭を下げていた。
「ふふ。頭を挙げて下さい」
婦人は優しく祖母の肩に手を添える。
「若いって素晴らしいですわね。私、感動しましたわ。ね、あなた」
「そうだな。今の時代、あんなにも純粋な若者がまだいるとは日本も捨てたもんじゃない」
小出社長は二人が消えた方を見つめながら目を細めて微笑んだ。