君のいる世界




「今回のお見合いは、今まで我が儘の一つも言わなかった直幸が初めて私達に頭を下げてお願いしてきたことなんです。本当に麗奈さんのことが好きだったんでしょうね」



婦人は今もバルコニーの柵に手を掛けて遠くを見つめる息子に、優しい眼差しを向ける。



「私も麗奈さんにお嫁に来てほしいと思っておりましたが、これも運命。今回のことは直幸にとって良い思い出と経験になったと思います」



祖母は怪訝な表情を浮かべ、俯いている。


その心境はとても複雑なものだった。




一度夜空を見上げた直幸は、晴れやかな顔つきで麗奈の父親に歩み寄る。



「谷本社長。この度はお騒がせ致しまして申し訳御座いません」



「いや、直幸君は何も…娘が大変失礼なことを…本当に申し訳ない」



「僕は、麗奈さんのお陰で今まで知らなかった自分を知ることが出来ました。彼女は本当に素敵な女性です。気持ちは全て伝えられたし、悔いはありません。縁談は破談しましたが、今後も小出を宜しくお願い致します」




直幸はそう言って深々と頭を下げた。


小出社長はそんな直幸の肩にポンっと手を置き、「私からもお願いする」と父親に笑みを向けた。




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