君のいる世界
俺が車道に一歩踏み出した所で、勢いよく腕を後ろに引かれた。
直後、大型トラックが俺の前を凄い速さで走り過ぎる。
その後を追うように吹く突風が俺の髪を大袈裟に揺らした。
「大輝君!!ぼーっとしてたら危ないじゃない!!!」
腕を引いて助けてくれたのは朱美さんだった。
俺は血の気が引いて言葉が出てこない。
そんな俺を、朱美さんは眉を寄せて心配げな瞳で見据えている。
「どうしたの…?大輝君がぼーっとするなんて珍しいじゃない」
「俺………っ!!」
一瞬頭から抜けていた二人の事を思い出し、反対側の歩道を見る。
二人はちょうど横に停まったタクシーに仲良く乗り込む所だった。
タクシーは二人を乗せ、すぐに夜の街に向かって走り出す。
俺はタクシーが視界から消えるまで、その後ろ姿を見つめていた。