君のいる世界
「山下、パーティーはどこでやってるんだ?」
「東京cinnabar (シナバー)ホテルの……って中澤さん!?」
俺は山下の言葉を最後まで聞かずに走り出した。
ガソリンスタンドの端に停めてある自転車の両立スタンドを足で思いっきり蹴り上げる。
そのままハンドルを握って自転車を押そうとすると、ガチャガチャっと鍵が車輪のスポークに当たる音がした。
車輪は回らずにコンクリートの地面を擦る。
くそ!急いでんのに…
俺は両立スタンドを足で元に戻した、その時ーーーー。
「中澤!」
店長は俺が振り向くと同時に何かを素早く投げた。
それは弧を描きながら飛んできて、やがて俺の手の中にすっぽりと収まる。
「行くからには手に入れるまで帰ってくるなよ!男ならバシッと決めて来い!!」
「店長…」
店長は口元に笑みを浮かべ力強い瞳で俺に頷いてみせる。
手の中に収まったのは形からして俺の自転車の鍵。
俺はその鍵をギュッと握り締め、頷き返した。