君のいる世界




「大輝君」



お母さんはベンチから立ち上がり、気を遣って少し離れていた会長に歩み寄る。


会長は姿勢を正し緊張した様子で「はい」と返事をした。




「今日は本当にありがとう。麗奈をこれからも宜しくお願いします」



頭を深々と下げるお母さんに、会長は今度はしっかりと逞しく「任せて下さい」と言った。


そんな二人の姿に、嬉しさで胸がいっぱいになる。






「そういえば、朱美さんが麗奈の見合いの日にあそこにいたのは偶然ですか?」



会長が思い出したかのように聞くと、お母さんは自嘲するような薄い笑みを浮かべてゆっくりと首を振って否定した。



「…あの日、麗奈がお見合いするって聞いて居ても立ってもいられなくてホテルまで行ったの。もし、政略結婚なら止めさせたくて。麗奈を谷本財閥の犠牲にさせたくなかった。でも…」



お母さんはそこで言葉を止め、眉を下げて何か思い出してるように視線を落とした。




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