君のいる世界
最後には俺がもらうから
店に戻った頃には22時半を過ぎていた。
出来たての弁当を受け取り、バイトを終えた琴音ちゃんも一緒に店を出る。
すると黄色い看板の横にスーツ姿の康君が立っていた。
「康君!どうしてここに?」
康君は「お迎えにあがりました」と仕事モードの笑みを浮かべ、私の後ろから出てきたお母さんに頭を下げた。
「麗奈のお見合いの事、康介君に聞いたのよ」
「え!?二人は連絡を取り合ってたってこと?」
ならどうして康君は私に教えてくれなかったの?
私がお母さんに会いたがってたこと知っていたはずなのに…
「お嬢様、そのお話は車の中で。中澤様、ご自宅までお送り致します」
康君はそう言ってお母さんに再度会釈をして、私達を誘導するように大通りの方へ歩き始めた。
本当はもう少しお母さんと一緒にいたかった。
でも、私とお母さんにはこれからたくさん時間がある。
焦らなくてもゆっくり時間を掛けて、今まで離れていた時間を埋めていけばいい。
数歩行ったところで足を止め、お母さんを振り返る。
お母さんは店先で淑やかに微笑み、手を振ってくれた。