君のいる世界
私に関わらないで
「さよなら…大輝…」
愛しい人の姿がどんどん遠くなっていく。
今、走って追い掛ければまだ間に合う。
あの大きな背中に抱き付いて、「何もかも捨てて私を何処か遠くへ連れてって」と言えたらどんなに楽だろう。
でも、私にはそんなこと出来ない。
大輝の家族の笑顔も、お母さんの笑顔も、全部壊すわけにはいかないから…
大きな背中が暗闇の向こうへ消えると、私は家に駆け込んだ。
「最後の自由時間、満喫したようですね」
「お祖母様…」
玄関先にはニヤリと不敵な笑みを浮かべた祖母の姿があった。
「明日、私の屋敷へ来なさい。いいですね?」
「はい…」
祖母は私の返事に満足した様子で、更に口の端を上げる。
そして草履を履くと、私の真横で足を止めちらっと私に目を向けた。
「…恋なんてくだらない事で涙を流すなんて馬鹿馬鹿しい」
愚弄した言い方に、悔しくて悔しくて身体が震えてくる。
この人に何を言っても伝わらない。
人間の心を何処かへ忘れて来てしまった人だから。
でも…