君のいる世界
「では、私共はこれで失礼致します」
そう言って、二人は屋敷を後にした。
結局、恵介さんが一度も口を開くことはなかった。
「不満そうな顔をしているわね」
「…いえ、そんなことはありません」
「本条グループは我が谷本財閥に比べたら格下ですが、うちが弱い部門ではトップの実力を持っています。そこを補強する為に、この婚姻は絶対不可欠です。本条グループにとっても夢のような話ーーー…」
祖母の言葉に憤りを感じる。
祖母がまだ何か話しているけど、怒りで耳に入ってこない。
小出財閥の社長とご婦人は、直幸さんの気持ちを第一に考えていて、それはもう理想的なご家族だった。
確かにそこには愛があって、私はそこに救われたんだ。
だけど、この婚姻には当人の気持ちも愛も何もない。
「それと、あなたの携帯は解約させました。今日からはこの携帯をお使いなさい。くれぐれもくだらない友人にも恋人にも母親にも新しい連絡先は教えないように」
「…くだらない?それは佳菜子やお母さん…大輝のことですか…?」
「何ですか?その目は」