君のいる世界




お母さんは離婚してからというもの、資格の勉強に励み、無事に資格を取得すると朝から晩まで掛け持ちで働いて資金を貯めていたらしい。


身体が辛くても、不動産屋の外に貼ってある物件表を毎日見つめ、早く店を持つんだと自分にカツを入れて。




「離婚から二年が経ったある日、久しぶりに早く仕事が終わっていつものように物件表を見てる時だった。名前を呼ばれて振り返ると、息を切らしたお父さんが少し離れた所に立ってたの。二年振りのお父さんは皺が増えてたけど、纏った雰囲気も笑顔も声も…何も変わってなかった。見つめ合った瞬間、張り詰めた物がスーッと抜け落ちて身体も心も軽くなったのを覚えてるわ」




そう言ったお母さんは頬を薄っすら赤く染めて微笑んだ。




ああ、そうか。


お母さんはきっと、まだ父親を愛してるんだ。


この表情や声色もそうだけど、お母さんが父親と再会した時に感じたこと。


それが何よりもお母さんの心情を物語っていた。




“張り詰めた物がスーッと抜け落ちて身体も心も軽くなる”




この不思議な感覚、今の私にはよくわかる。


大輝と想いが通じ合った時も、今朝久しぶりに抱き締められた時も、お母さんと同じように感じたから。





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