君のいる世界
「朱美が出て行ってから毎日のように泣く麗奈とどう接したらいいか、どうすれば笑顔を見せてくれるか、何もわからなくてただ見守ることしか出来なかった。気が付いたら麗奈との間に距離が生まれてた。思えば離婚する前も仕事ばかりで麗奈のことは全部朱美に任せっきりで、私は駄目な父親だ」
父親は当時を思い出しているのか、眉を下げて申し訳そうに俯いた。
初めて父親の胸の内を知った。
目の前の弱々しい父親を見れば、どれほど私との関係に悩み、悔やんでいたことがわかる。
私達はただ言葉が足らなかっただけ。
今なら素直になれる。
ずっと胸の奥に閉まってた正直な気持ちをちゃんと伝えたい。
「私、ずっと寂しかった。急に訳もわからずお母さんが出て行って、お父さんは仕事で家に殆どいないし。二人とも私の事嫌いになったんだって、毎晩泣いてた。家の中は静まり返って、食事はいつも一人。高級料理が並んでも味なんてしなかった」