君のいる世界
「何?」
ややして、お風呂に入った後なのか、髪が濡れたままの会長が台所に顔を出した。
グレーのスウェットズボンに紫色のロングTシャツ。
肩に掛けたままのバスタオル。
濡れた髪から落ちる雫。
同年代とは思えない程色っぽい会長に目が釘付けになった。
「もう遅いから麗奈ちゃんのこと送ってってあげて」
お母さんのとんでもない提案に、ぼーっとしていた私は正気に戻った。
「はぁ!?何で俺が」
会長はさっきまで兄弟に向けていた笑顔とは打って変わって、嫌そうに顔を歪める。
そんな会長にムッとしたけど、今はそんな事より全力で断らないと…!
いくらなんでも今会長と二人っきりだなんて息が詰まる!
「おばさん、私一人で帰れますから」
「駄目よ!麗奈ちゃん可愛いんだから、おばさん心配だわ!」
「でも…」
おばさんは私の両手をギュッと握り、真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
その瞳は、断る事を許してくれない。
そんな力強い目だった。