君のいる世界




私は春音ちゃんと大和君とまた遊ぶ約束をして、中澤家を後にした。





満月の下、静まり返った住宅街を会長と並んで歩く。


街灯の明かりで出来た私達の影が仲睦まじく見え、それが何故だか嬉しかった。


この想いが何なのか、この時の私にはわからなかった。




「あのさ、本当はあいつ具合悪かったわけじゃないんだろ?」



家を出てから一言も話さなかった会長が、急に気まずそうに話し始めた。



「あんなにピンピンしてんのに具合悪いなんてありえない。一体何があったんだ?」



「えっと…」



「何?琴音に言わないでくれって言われた?」



言われたわけじゃない…


だけど、知られたくないようだったし。




「頼む。教えてくれないか?」



そう言って、初めて会長が私に頭を下げた。


私に頭を下げるなんて絶対にしたくないはずなのに…


家族を守るために頭を下げる会長の姿からは、愛情がヒシヒシと伝わってきた。






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