君のいる世界
赤信号で車は静かに止まった。
何をそんなに急いでいるのか、横断歩道をせかせかと歩く人の群れ。
「あ…!」
その中に見覚えのある人物を見掛けて、人混みにじっと目を凝らす。
やっぱり、あれ会長だ…
憎き会長こと中澤大輝が、一緒にいる幼稚園児の手をしっかりと繋いで、とても楽しそうに笑っている。
その目からは、愛情が感じられるほど。
学園では笑った所を誰も見たことがなく、その眼差しも冷たいって有名な話だけど。
ふ〜ん。
会長って、あんな風に笑えるんだ…
ふと今日の生徒会室で言われた事を思い出した。
“嫌いなんだよね、お前みたいな女”
思い出せば思い出すほどむかつく。
お前って…私には谷本麗奈って名前がちゃんとあるのよ!
それに…そんなこと貴方に言われなくなって…
私の方が誰よりも、何倍も何十倍も…
自分が嫌い…
何のために生きてるのかもわからない。
誰かと笑ったり、泣いたり、時には怒ったり…
そんなこと今まで一度も経験無いし。
そもそもそんな相手すらいない。
だから一瞬…ホント一瞬だけど、貴方が羨ましいと思った。
私は会長が見えなくなるまでその背中を見つめていた。