君のいる世界
「谷本さん…大丈夫?」
山下さんは心配そうな顔を向けた。
山下さんにも全部聞こえてるよね…
「…私、忘れ物しちゃったみたい。取りに戻るね」
私は心配かけないようになるべく平然を装って笑顔を見せた。
だけど鏡を見なくてもわかる。
私、全然笑えてない…
これじゃ余計に心配掛けちゃうのに…
意識して口の端を上げようとすると引き攣ってしまう。
五限目の授業の移動の為に、続々と横を通り過ぎる生徒。
その度に指を刺され軽蔑の眼差しを向けられる。
私は下唇を白くなるまでギュッと噛んで目を伏せた。
「…それじゃ」
私はその場から消え去りたくて全速力で走った。
山下さんが名前を呼んだ気がしたけど止まらなかった。
こんな顔、誰にも見られたくない…
目からは無数の涙が溢れ、頬を滝のように流れ落ちていく。
私は涙を拭うのを忘れるぐらい、無我夢中だった。