君のいる世界
「ハァハァ…」
人気がなくなった廊下で足を止め、壁に凭れて乱れた息を整える。
階段を休むことなく駆け上り、足はフラフラだった。
涙で濡れた顔を手の甲で大雑把に拭い、後頭部をコツンと壁につける。
廊下の窓から見える空にはさっきまでなかった濃い灰色の雲が一面を覆い、青空を隠している。
止まることを知らない涙は制服を濡らしていった。
ーーーーーキーンコーンカーンコーン。
午後の授業の開始を知らせる鐘が鳴り、上体を起こした。
ここにいたら先生に見つかってしまうかもしれない…
とりあえず移動しなくちゃ。
辺りを見渡すと今ではだいぶ見慣れた木製の扉が目に入った。
「私、無意識にここに来てたんだ」
私は重い扉を身体を使って開けた。
ギィィ…っと思わず顔を顰めてしまうような耳障りな音が室内に響いた。
開けた途端に目に入るシャンデリアは私の気も知らず、今日も輝きを放っている。
私は生徒会室に足を踏み入れ、窓から外を眺めた。
噴水からは休むことなく水が噴き出され、学園の前の通りを何台もの車が走り抜ける。
いつもと何ら代わりのない景色。
だけど、私には違う景色に見えた。