† of Ogre~鬼の心理
どこか遠くで車の走る音が聞こえた。犬の吠える声がした。人の気配を感じる。

街は、私には見えないところで息づいている。

静かではないのだ。

やがて私は初めて訪れた十字路で立ち尽くし……前と、右と、左、そしてもう一度、前を見やった。

「どっち?」

と訊ねる。訊ねてしまう。得体の知れない声だとわかっていながら、私は心のどこで、胸の奥底で、脳以外のなにかで、信用していた。

いや理解していた。

この声は、私に仇なす者ではないと。

いや本当は、そんなフィーリング、関係ない。

私は声のぬしを知っている。そして声のぬし……彼が名乗った時点で、拒絶する理由はない。

彼の言ったことだから信用できる。彼の言ったことなら信用できる。違う、むしろ、「今すぐに行くから待っていて」と、声にすがりたいほど、信頼もしたい。

だからこそ、自分から訊ねるのだ。訊ねてしまうのだ。

なぜなら私は彼のことを大嫌いで大嫌いで、大嫌いで、大嫌いで、だけど、それ以上に――……。
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