† of Ogre~鬼の心理
「ああ草薙、早く厨房に入ってくれ。少し注文がつかえとるんだ」

「あー、それなんだが……」

店主は豪気な男である。俺のような態度の悪い女を、料理やら手際のよさやらを買って、やや高い時給で雇ってくれている。

が、事態は緊急を要すのだ。

こういう時の、最低限の礼儀ぐらいは俺だって知っている。顔の前で掌を合わせた。

「すまん、早退する」

「は?」

「早退する」

「なにっ!?」

「外せない用事ができた、帰る」

「お前なに言っ」

「代わりに!」

遮って、

「あそこで座っている狐目男を使え。アイツも結構な器量よしだ」

指差してやった先は、店の奥。

衝立で若干見えにくくなっている席にいるのは無論、黒い修道衣の細面な男――一ツ橋だ。
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