† of Ogre~鬼の心理
第二十九節
† 第二十九節
僕にコメディアンの要素を求められても、うまく応える自信はない。
ギャグを考える頭はないし、意識したらダジャレすら浮かばない。
でも今なら、かのチャップリンにも喜んでいただけるような、盛大な『ズッコケ』をできる気がした。
ポケットの中で突然の怒号をあげた物体を引っ張り出しながら、苦笑する。
幾何学模様のうねっている付箋からはまた、「おいこのヘラヘラ偽善者!!」と女丈夫の声が溢れていた。そこいらの通信機よりも高音質の叫び声だ。
『あ、あの……?』
「ああ、ごめんよ」
今いるのは非常階段の踊り場だ。非常口案内のパステルグリーンや節電照明に照らされたクリーム色の壁が縦長に続く空間では、異様なほど声が響く。
もちろん仁の声も響いてしまうし、電話の向こうの彼にも聞こえてしまう。
きっと小首を傾げられていることだろう。
ケータイを二台持っているとは想像しづらいだろうし、そもそも、こんな付箋で会話を行うなんてだれも予想できないだろうから……風間少年の脳内には、「騒がしいだれかが現れた」という光景が描かれているだろう。
否定は、しない。
僕にコメディアンの要素を求められても、うまく応える自信はない。
ギャグを考える頭はないし、意識したらダジャレすら浮かばない。
でも今なら、かのチャップリンにも喜んでいただけるような、盛大な『ズッコケ』をできる気がした。
ポケットの中で突然の怒号をあげた物体を引っ張り出しながら、苦笑する。
幾何学模様のうねっている付箋からはまた、「おいこのヘラヘラ偽善者!!」と女丈夫の声が溢れていた。そこいらの通信機よりも高音質の叫び声だ。
『あ、あの……?』
「ああ、ごめんよ」
今いるのは非常階段の踊り場だ。非常口案内のパステルグリーンや節電照明に照らされたクリーム色の壁が縦長に続く空間では、異様なほど声が響く。
もちろん仁の声も響いてしまうし、電話の向こうの彼にも聞こえてしまう。
きっと小首を傾げられていることだろう。
ケータイを二台持っているとは想像しづらいだろうし、そもそも、こんな付箋で会話を行うなんてだれも予想できないだろうから……風間少年の脳内には、「騒がしいだれかが現れた」という光景が描かれているだろう。
否定は、しない。