† of Ogre~鬼の心理
私を呼ぶ、彼の声。それだけ。

それが、いったいどこから聞こえるか。

たったそれだけしか気にしてない。それくらいしか、気にかけられない。それしか、気にしたくない。

熱さえも、今は声のおかげで忘れていた。

背後からアルの気配が追いかけてくるし、その後方では、真鬼が歯牙にかけ損なった女が、仁からの一方的な攻撃を受けている。――らしい。

そうあくまで、らしい、だ。

気配だけでしかわからない。気配だけでしか知らない。

振り返って見ればすぐに判別できるが、その一秒あるかないかの確認動作さえ、今の私には疎ましい。邪魔くさい。私は一刻も早く――

―― こっちだ、真輝、こっちだよ ――

「わかってるわよ」

この声に、答えにいかなければならない。

跳躍の最中、ふと思い出して、懐に手を入れる。

あの女の一撃を食らって大きく裂けてしまった懐には――幸い、ちゃんと硬い感触がある。触り慣れた、つるりとした長方形。掌に収まる、若干弧を描くそれ。

「藤岡」

―― なに、真輝 ――

「もう着くわ」

―― うん。待ってるよ、真輝 ――
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