† of Ogre~鬼の心理
そう、彼は1にはなりきれず、しかしその曖昧な存在でも、時間の中で摩耗することさえ許されない。ただひとつの目的を得た時に発生し、それを果たすためだけに留められる、本物ではない本物。本人ではない本人。

肉体も、魂魄もない、それ。0以外へ変化する術のない、そして0以外への変化に意義のない、もはや物質。

しかし、生きていないとは言い切れず、生きているとは言えない。死んでいるとも違う。

思念体。

あの日、あの時――「僕にはわかるよ」と――真剣にたわ言を吐いた彼の、置き土産なのだ。

空中浮遊する藤岡は、まぶたを閉じた。なにかに思い耽るような沈黙が、一拍。そしてなにかを整理し終えたような深呼吸が、聞こえた。

―― ああ真輝、ごめん。僕には、君がいま想像している通り、ひとつの目的しかないんだ。たったひとつの目的しかないし、それ以外にはなにもできない ――

「……だから、思い出話も、私がアナタになにをどれだけ言いたいかも、聞けないって言うのね」

―― ごめん。不躾で ――

「許せない」

―― ごめん ――
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