† of Ogre~鬼の心理
「藤岡――」

彼の腕が私を包み、その重みを感じたのは、錯覚だったのだろうか。

あれだけ私を焼き刻まんとしていた暴威は、幻想だったのだろうか。

彼と交わした今の言葉もぬくもりもすべて、偽りだったのだろうか。

ようやく焦点と意識の合致した視界は、紅くもなければ熱くもなく。

遂に解放された晴れ渡った午前の空は、不審なほど青々としていて。

「藤岡……」

その世界にもはや、彼という安らぎの鞘は、存在する理由を失った。

右手で握り締めているナイフはまだ、艶やかしい白銀を帯びている。

そこにあるのは、他者を侵害、凌辱、果ては惨殺するという狂気性。

けれど今、その眩いほどの危うさは、熱とともに消え果ててしまった。

すべて、彼のおかげだ。

感謝は、しない。なぜならそれが彼の存在意義だったし、使命であったし、約束だった。

一方的な約束だったけれど、約束は約束だった。

私は真輝であり真鬼、真鬼であり真輝。これは刃であり銃であり弾丸であり、すなわち凶器となる。

総じてこれを、東城真輝と称する。

藤岡悟はその一切と合切を守り庇う、鞘なのだ。

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