† of Ogre~鬼の心理
「俺も面倒なわけだ」

「僕の相手がですか」

「ああ、そうだ。実に面倒くさい。非常に面倒くさい。いや最早、めんどい、だ。こんな深夜の来客なんざ、まったく俺の運命上には予定してなかったからな」

半分冗談で訊ねてきただろう少年に、本気で答えてやる。嫌味も二割増しにしてやった。

ついでに、本気繋がりで訊いてやろう。

「それで、用件は?」

「東城さん、元気ですか? 今日は学校に来ませんでしたから」

「ああ、ぴんぴんしてる。それで?」

「あ、もう済みました」

「……」

「僕は東城さんの家の人に、東城さんが元気か訊きたかった。それだけですから」

かしゃん、と小さな音を立てた反動で、少年が後ろへ跳ねる。

一メートルほど距離を開けた少年は、ぺこりと儀礼的に頭を下げた。

「夜分、お邪魔しました。東城さんによろしく」

そしてくるり、きびすを返して、行ってしまう。

夜の海に月が映るような、ところどころしか街灯の明かりがない道へ、学ラン姿が溶けていく。

少し先で角を曲がったのか、その輪郭も見えなくなった。
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