† of Ogre~鬼の心理
服を脱いだところで、アルの部屋には分不相応な代物を見つけた。

今までそんなものがあるとは思わなかったが、姿見が、ちょうどクローゼットの対面に据えられている。木製で、繊細に花模様が彫り込まれた、年代物だ。

(鏡に映らないヤツが、なぜ鏡を持っているんだか)

まったく笑える発見と共に、全裸の自分を見る。

いつからだったか忘れたが、成長しなくなった体は相変わらず若い。こちとら長い年月の中でずいぶん精神が消耗されているというのに、この体を見ると、『それでも生きろ』と命ぜられているようで、どうにもいけ好かない。

(変化のない体を見たら、磨くのも飽くわな)

皮膚にしわが寄ることもなければ、胸が垂れることもない。

ああそうだった、老いることすら、俺は捨ててしまったわけだ。

後悔なんざ毛ほどもしていないが……なにかが欠落するというのは、少しつまらないことだった。
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