† of Ogre~鬼の心理
女が言った。

「気付いたのはついさっきよ」

ついさっき……ああ、なるほど。もしかしたら空を見上げた時、目を離したのがまずかったのかもしれない。

「私になにか? 変な用なら、すぐに大声を出すわよ」

「おお、怖いことを言う」

私の数メートル左では、雨音と靴音が相変わらずにぎわっている。

つまり、女の大声など響こうものなら、人だかりなど秒単位で出来上がるというわけだ。

が、世の中そう、上手くいくものでもない。

「安心してくれ」

と、私は両の手を、お手上げの形でひらひらと振り、

「叫ぶいとまさえ、与えはしないわ」

「!? ――むぐっ……!」

一瞬で距離を詰めた女の口を、頬骨から軋ませるつもりで、掌握した。
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