ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
ファースト・トラップ
おためしの恋愛 梓side
あぁ~もうっ、いい加減にして欲しい。
毎日毎日終業時間になると寄ってくる上司や同僚たちは、一体何を考えているんだろう。こっちは嫌だって毎度断ってるんだから、そろそろ学習しろってんだっ! そんな下心丸見えで誘われて、誰がついて行くかっ!!
憤慨しながらも、少しづつ秋の色に色づき始めた木々が立つ並木道を、小走りに急いだ。
今日は親友の誕生日。よく行くカクテルバーで待ち合わせをしていた。そんな日に限っていつもよりしつこく絡まれ、なかなか返してもらえないなんて……。
ついてないったらありゃしない。
勢い良く角を曲がると、古びた木の看板に『Secret garden』の文字が、淡い光りに照らされていた。ほっと一息つくと、店の少し重たい扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
扉の近くに立っていた店員、柏原雅哉(かしはら まさや)に声をかけられる。
「どうも。枝里来てる?」
「お店の開店と同時に入ってきたよ」
そう言って、人差し指を二本、頭の上に立てた。
あぁ、怒ってるのね……。
肩を窄め苦笑してみせると、足音を立てないようにカウンターに近づいた。
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