ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

う~ん、一ヶ月かぁ……。
マスターとなら退屈しないと言うか、話術に長けているから楽しませてはくれそうだよなぁ。こんな言い方は失礼かもしれないけれど、暇つぶしだと思ってオッケーしちゃうのも悪くないかも……。
そんないい加減な気持ちから、安易に返事をしてしまった。

「じゃあ一ヶ月、よろしくお願いします」

頭をペコリと下げる。

「了解っ!」

軽く敬礼のポーズを決めたかと思うと、何やら慌ただしくジョッキを二つ用意した。そしてサーバーから生ビールを手際よく注ぎ始める。
そっか、おごりのビールね。でも、何で二杯?
一杯は私がマスターにおごるビールなのは分かるけど……。
首を傾げながらマスターを目で追っていると、目の前にジョッキが置かれた。

「はい、これは俺から」

「え? でもこれじゃ借りることに……」

「かんぱーいっ!!!」

ならないでしょ……と、そこまで言わせてもらえなかった。
話してる途中で、乾杯なんて。
マスター? なんでそんなにご機嫌なんですか? そう聞きたい気分だよ。
今日のマスターは、本当によく分からない。
でもまぁ、それもいいか。マスターの笑顔は、誰をも気分良くしてしまうから
ね。
ジョッキに口をつけると、一気に半分くらい喉に流し込む。

「はぁ~、美味しいっ」

「これで、契約成立!!」

その言い方があまりにも可愛くて、プッと吹き出して笑ってしまった。

「そこ笑うとこかなぁ~、梓」

「へっ? あず、あず……」

今、梓って聞こえなかった? 私の聞き間違えか? 今までは“ちゃん”ついてたよね?

「梓、何口パクパクしてるの?」

やっぱり梓って呼んだっ!! 間違いじゃなかったっ!!
何で? 何で急に呼び捨てに変わっちゃうのぉ~!?

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