ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

  色香に惑う     遼side


先週の土曜日以来、梓の様子がおかしい。
俺のことを穴が空くほど見つめていたかと思ったら、目が合えばサッと逸らす。
心ここにあらずといった感じで、何かを考えていることも多い。
いったい、どうしたと言うんだ。
そう言えば火曜日の電話の声も、今思えばどことなく変だった。
残業だと言われたら、それを止めることはできない。
別に疑うこともしなかったし、たまにはしょうがないな……ぐらいに思っていたんだが。

俺、何かしでかしたか?

……思い当たるフシが見つからない。
椅子に腰掛けて大きく溜め息をつき頭を抱えていると、後ろから肩を叩かれた。

「遼先輩、どうしたの? 元気ないね」

「おう、雅哉。今日は頼むな」

「あぁ、カクテルの講習会だったね。こっちのことは任せて……と言いたいとこだけど、俺だけではまだまだ。何かあったら、呼びに行くよ」

「いつでも声かけてくれ」


梓と契約を交わす前から常連のお客さんから、カクテルについてレクチャーしてくれないかと頼まれていた。友人何人かを集めたからとお願いされたら、それを拒む理由はない。
仕事としての依頼だし、正直、もっと多くの人にカクテルの良さを知ってほしいと思っていたとこだった。グッドタイミングと言ったところか。
どんなことをどんなふうに教えるかは、こっちに任せるということだったから、予算と日時だけ決めたんだけど……。

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