ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
まさか、こんな気持ちの時に重なるなんて……。
それもレクチャーする相手は、女性五人。
しかも、この話しを持ち込んできた女性常連客の佐々木さんは、雅哉が見るところによると『先輩に気がある』らしい。
何となく、嫌な予感がする。
いつものように準備を終え店をオープンさせると、雅哉やバイト連中に通常業務を任せ、レクチャーのための準備にとりかかる。
今日のメンバーは佐々木さん以外、ほとんどカクテルに関する知識がないということらしい。ならば基本から話をしようと、道具やグラス、ベースとして使うお酒3本を用意した。それにリキュールを1本。
あとは実際にカクテルを作って見せるときに、割材と香りつけやデコレーション類などを持ってこればいいだろう。
それらを店の一番奥にあるソファースペースに運ぶ。
全員から手元が見えやすいようにソファーやテーブルを移動させると、花屋に頼んであったフラワーアレンジメントを真ん中に飾る。
「悠希っ、アンティパスト運んでっ!」
「分かりましたっ」
今日の予算の中には、軽食も含まれている。
アンティパストには、魚介類と野菜のマリネとフリットミスト(揚げ物の盛り合わせ)を用意した。それを見栄え良く並べる。
そして、食器やフォークなども用意を終えると、ドアが重い音を響かせた。
「いらっしゃいませ」
雅哉の元気な声が聞こえて振り向くと、佐々木さん達が入ってくるのが見えた。
ふぅ~、ギリギリ間に合った。
立ち上がり身なりを整えると、お客様の前に向かう。