ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「梓っ!」とキツく呼んだのがいけなかったのか、掴んだ手を振り払われてしまった。
黙ったまま振り向きもしない梓に苛立ち、今度は強く腕を掴んでしまう。一瞬、梓が痛そうな顔をしたが、そんなもん構うもんかっ。そのまま力いっぱい引っ張ると、裏の通用口へと向かった。
そこから中に入ると、梓の身体に力が入ったのが分かる。緊張なのか抵抗なのか。
こうなったら……
意を決めると、梓の身体を抱き抱えた。
「ちょ、ちょ、ちょっと遼さんっ!? 何で、お姫様抱っこ……」
そんなこと、いちいち説明させるなっ!
この方が、手っ取り早いんだよ。
とは口にせず、ただ一言……
「黙ってて」
これが効いたのか梓が大人しくなると、俺の中の苛立ちも消えていった。
梓の硬くなっていた身体も、しだいに柔らかさを感じるようになった。
そのまま三階の俺の部屋まで連れて行くと、そっとベッドに降ろす。
すると何を思ったのか梓が急に目を見開き、顔をこわばらせて壁際まで後ずさった。
俺が今すぐ何かするとでも思ったのか?
いくら俺でも、そこまでの節操なしじゃないぞっ!!
少し呆れながら、梓の目線の位置までしゃがむ。
「何もしないよ。まったく、何考えてんだか……。店終わるまで、ここで待って。いい? 勝手に帰らないようにっ」
最初の言葉は、心の中の気持ちが勝手にでてしまった感じだが、後半は強制力をもたせた。