ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「あ、あのぉ……マスター?」
「何?」
「なんで急に、梓って呼び捨てなのかなぁ~なんて」
「ああ。だって俺たち付き合ってんだし、彼女は名前で呼びたいと思ってね。もちろん俺のことも、遼って呼んでほしい」
やっぱり、そうきたか……。
ここは素直に呼んでおいたほうが無難だろう。
「遼……さん」
やっぱいきなり呼び捨ては無理!!
「遼でいいって」
「うぅっ。じゃあ、おいおいと……」
「俺の彼女は、恥ずかしがり屋さんだなぁ~」
彼女彼女って……。まだ、ついさっき彼女になったばかりだよ? それも(仮)がついた、期間限定の彼女。
梓って呼んだと思ったら、俺のことも遼って呼べ?
おためしで付き合う割には、結構細かいことを気にするのね。
たった2歳とは言え、年上の遼さん。私よりかなりしっかりしていて、随分と大人に見えた。その人を呼び捨てなんて、恐れ多い。
うん、“遼さん”この呼び方が、一番しっくりくる。
またまた一人で納得していると、他のお客さんのカクテルを作り終えて戻ってきた遼さんが、カウンター越しに顔を近づけた。
「これからは毎日会いたいな。余程の用事がない限り、仕事が終わったらここに来て」
「毎日……ここへ?」
「そう。じゃないと、俺と梓は働く時間帯も休みの日も違うから、なかなか会えないでしょ?」
そ、それもそうか……。
うん、これも納得。
今まで仕事帰りはどこへも寄らず、まっすぐ我が家に帰宅。好きなマンガや雑誌を呼んでゴロゴロ過ごしていた。こんな堕落した生活を変えるのも、いい気分転換かもしれない。
しかしこの後、遼さんの口から驚くような言葉を聞くと、そんな甘っちょろい考えはどこかへ飛んでいってしまった。