ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

今日の記念に小さいサイズのリキュールを手渡すと、彼女たちを外まで見送り店に戻る。

「蒼太、悪かったな」

「いえ、結構楽しかったですよ。毎回はキツいですけどね」

そう言って、悠希や智成と顔を見合わせて苦笑した。
元はといえば俺の身勝手な行動で迷惑をかけたのに、嫌な顔ひとつしない。
良い奴ばかりで、ほんと助かる。
カウンターに入ると何人か常連さんがいて、挨拶を交わす。
しかし、どこを見ても雅哉の姿がない。
カウンターを出ると、智成と目が合った。

「おい智成。雅哉知らないか?」

「え、えっとですね……」

何か言いにくそうににすると、人差し指を立てて上を指差した。

「そういうことか……。サンキュー智成。店、ちょっと頼むな」

今晩は、いつもの金曜日に比べて客もそんなに多くない。雅哉をすぐに下に降ろせば何とかなるだろう。
階段をゆっくり上がっていくと、二人の楽しそうな声が聞こえてきた。ドアの前に到着すると、どうやら雅哉は梓に甘えているみたいだった。

何やってんだ、アイツ……。

ドアを静かに開けて壁にもたれかかると、3回ノックした。
びっくりしたように振り返る二人。

「雅哉、いつまでそこにいるつもりだ。さっさと店に戻れっ」

相手は雅哉だ。何もムキになることじゃないのに、何か腹が立つ。

「だって、梓さんひとりにしたら可哀想だと思ってさ」

なんの悪ぶれもせずそう言うと、梓にしがみついた。
俺の前で、よくそんなこと出来るなっ!
梓も何で笑ってるんだよっ!! 引き離せっ!!
イライラも頂点に達すると、雅哉を梓から無理矢理引き離す。

「いいかげんにしろ。梓も梓だ」


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