ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
雅哉を甘やかす梓にまで、苛立ちをぶつけてしまう。
当の梓を見てみると、やっぱり唇を前に突き出し怒っているようだった。
でももう遅い。俺の、梓を罠にかけるスイッチが入ってしまった。
「何、唇突き出してるの? 今すぐキスして欲しいって?」
少し淫靡で意地悪な雰囲気を出して言うと、雅哉が慌てて部屋から出て行った。
それを確認すると、目を合わそうとしない梓の顎を掴み上を向かせた。
俺に何かされると思って怖いのか、目は潤み身体は震えていた。
ちょっとやり過ぎたか……。
そんなにビビらなくてもと思う反面、その姿があまりにも可愛くて可笑しくて、笑いが堪えられなくなってしまった。
「俺が無理矢理キスすると思った? そんな顔してる時の梓にキスなんかしないって」
ほんとに二歳しか違わないのか!? と思わずにはいられない可愛さだ。
頭をそっと撫でてやると、ずっと黙っていた梓の大きな瞳から、涙が溢れてきた。
どうして泣くんだよ。何もしなかったじゃないか。
俺の目を真っ直ぐ見て涙を流す理由を、どうしても知りたくなった。
梓の両肩をグッと掴むと、そのまま身体をソファーに押し倒す。
驚きで目を見開きながらも、涙をながしている梓。
「何で泣いてる?」
優しく問うが、「わからない」と答える梓。
「キス、して欲しかった?」
もしかしたらと聞いてみると、答えが帰ってこない。
何かを考えているのか、合っていた目を閉じてしまった。
沈黙の時間が続く。
しばらくすると、梓が小さく息を吐いた。
ゆっくり目を開くと、さっきまでとは明らかに違う穏やかな目をしていた。涙も止まっている。