ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

「まぁ、どんなことがあっても破棄は認めなかったけど。良かった」

何て、強がりを言ってみても、顔がニヤけてしょうがない。
俺の気分は良好なのに、目の前の梓は浮かぬ顔をしていた。

そうか。契約破棄は阻止できたけれど、どうして破棄なんて言いだしたのか理由は聞いていなかった。
その理由が、梓から笑顔を消してしまっているんだろう。

「講習会が原因?」とか「雅哉から何か聞いたのか?」とか思い当たる節を聞いてみても、なかなか答えてくれない。
講習会をした理由を話しても、「分かってる」の一言だけ。

本当に分かってるのか? その割には納得してないような……いや、納得してないどころか不満に思っている顔が、妙に気になる。

「その顔は分かってないね? 何が不満? 言いたいことがあるなら、言ってみてよ」

少しイラついて、つっけんどんに聞いてしまった。
梓の顔が、見る見るうちに険しさを増す。
ダメだ、ダメだっ!
ここで梓の機嫌を損ねたら、何の意味もなくなる。
梓が答えやすくなる言葉を用意してやらないと。
そして、考えた末に出た言葉は……。

「俺の彼女……でしょ? 梓は」

その言葉を聞いた梓が、大きく目を見開いた。
すると今度は小さく身体を震わせ、顔を紅潮させると大きく息を吐いた。
良かれと思って言ったことが、逆に怒らせてしまったか?





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