ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
朝食をとっている時に二人で話し合って、今日は一駅分だけ地下鉄に乗り、この街一番の繁華街へと行くことにした。
遼さんの店からメイン通りに出ると、すっかり葉を落としてしまった並木道を二人手を繋いで歩く。
「思ったより早く出られたし、慌てることないな」
-----だから、ゆっくり歩こう-----
耳元に顔を寄せて、息を吹きかけながら甘く囁くなんて……。
少しくすぐったくて首を窄ませた。
「もうっ」
「梓、首筋弱いんだ」
ニヤニヤして「いいこと知っちゃった」なんて言ってる顔は、まるで子供。
どの顔が、本当の遼さん?
朝からころころ変わる遼さんの顔に、翻弄されっぱなし。
今だって、ドキドキが止まらない。
繋いでるてから、それが伝わってしまわないか心配だ。
「おぅ遼さんじゃないか。おはようさん」
老舗のお茶屋さんの前で掃除をしていた、店主らしき人が遼さんの声を掛けてきた。
「千さん、おはようございます」
丁寧に頭を下げる遼さんを見て、私も慌てて頭を下げた。
「遼さんも隅に置けないねぇ。そんなべっぴんさん連れて。彼女かい?」
照れたように頭を掻くと、繋いでいた手を離して肩を抱いた。
「そうなんですよ。自慢の彼女。また二人で挨拶に行きますね」
じ、自慢の彼女って……。それに、挨拶って何の挨拶?
よく分からない会話に、遼さんを見上げる。ニコッと微笑まれて、その場は終了。
お茶屋の千さんが「待ってるよっ」と片手を上げると、遼さんも手を上げそれに答えた。