ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

どっと疲れてしまった。
近くに洒落たカフェを見つけると、喉が渇いたと遼さんを誘い、店内へと入った。
通りに面した窓際の席に座ると、二人ともカフェ・ラテを頼む。

「遼さん、もう公衆の面前で、ああいうことは止めてね」

キス自体は嫌なわけではないから、やんわりと伝えた。

「そうだね。梓の慌てふためく可愛い顔を、世の男性に見せるのはもったいないからな」

そう言ってニヤリと意地悪な笑みを見せる。
絶対わざとやったに違いない。やっぱり遼さんは、策士だ。
目に前で腕を組み、余裕たっぷりに笑っている遼さんを見て溜め息をつくと、運ばれてきたカフェ・ラテに口をつけた。

窓の外に目をやると、到着したばかりよりもかなりの人で溢れていた。
今日は土曜日。
ファミリーの姿も多いけど、やっぱり目立つのは幸せそうなカップルの姿。
互いを暖めあうように寄り添って、会話しながら見つめ合う姿は微笑ましい。
その姿を見ていると、ある思いに辿り着く。

私たちは他人の目から見たら、どんな風に映っているんだろう……。

友達? 兄妹? それとも……。
遼さんに目を戻すと「どうした?」と聞いてくる。
私たちは恋人? そう聞きたいのに、怖くて聞けない。
『今はね』なんて答えられたら、立ち上がることができなくなりそうだから_。

「ううん、何でもない」

今日は折角のデート。だから余計なことを考えないで楽しく過ごしたいと思っているのに、薄っすら笑顔を作ってそう答えるのが精一杯。
情けない……。

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